アラサークライシス×アラサーリライズ

危機がチャンスに変わる108の物語

#散歩(第6話)

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bakufu-fu.hatenablog.jp

 

#散歩

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私は夏の終わりの

秋の匂いのする夜が好きだ。

 

今までの何かが終わって

新しい何かが始まる予感を

肌で感じられるからなのかもしれない。

 

 

休日の夜、私は家の近くを時々散歩する。

歩きながら考え事をしていると

なぜだか分からないけど

頭の中がすっきりする。

 

今日は近くの公園まで向かった。

歩きながら、いろいろなことが頭に浮かぶ。

 

仕事のこと。

人間関係のこと。

彼氏のこと。

そして

茶店の彼女のこと。

 

そういえば

まだ、彼女の名前を知らない。

今度また会った時に聞いてみよう。

 

連絡先も必ず。

 

あんなに話したのに

名前も連絡先も知らないなんて不思議。

 

でも

また、会えるということだけで

こんなにも

安心するんだ。

 

ポケットの中のスマートフォンが振動した。

#再会(第5話)

 前回の記事はこちら

bakufu-fu.hatenablog.jp

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#再会

偶然なことなどこの世界にはひとつもなくて

すべては必然として目の前に現れる。

 

水曜日の午後。

私はあの路地裏の喫茶店でいつものように休憩していた。

今日は午前から雨が降っていた。

足下が濡れて気持ちが悪い。

 

さっきのプレゼンの反応が悪かったのは

きっとこの天気のせいだなと

しょうもない因果で自分を納得させていたとき

急に声をかけられた。

 

「おつかれさま。」

 

「えっ、あ、おつかれさまです。」

 

笑顔の彼女がそこにいた。

 

「今日は雨だからお仕事大変ですね。」

 

「はい。。」

 

「あ、ほらタオルあるから、どうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

なんだろう、この人の距離感。

自然と心の中にすっと入っている感じ。

全然嫌な気がしない、むしろ

心地いい。

 

私たちは近況をざっくばらんに話しあった。

なんでもない会話が楽しかった。

仕事でミスをしたことも話してみようかと思ったが

他人にそんな話をしても迷惑なだけかなと思い

止めておいた。

 

彼女のこともいろいろ教えてくれた。

近くのマンションに住んでること

1年前に結婚したこと

主婦業のかたわら

フリーで教育の仕事をしていること

(セールス、マーケティング、組織のマネッジメント...)

 

全部なんでも話してくれたのに

結局何をやってるのかは分からなかった。

 

帰り際に彼女は私に言った。

 

「悩んでること、口に出してみてもいいんだよ。」

 

私はとっさに

「あの、また会えますか?」

 

「水曜日のこの時間はこの喫茶店にいますので

いつでもどうぞ。」

 

茶店を出ると雨がやんでいた。

 

#東京の街(第4話)

前回のお話はこちら 

bakufu-fu.hatenablog.jp

#東京の街

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茶店に彼女に会いに行った日から一ヶ月が経った。

私はミスしたことなどなかったかのようにして

再び忙しさの中に戻っていた。

 

あれから、何度か喫茶店に足を運んでみたが、

彼女に会うことはなかった。 

 

金曜日の夜。

仕事が早く終わって帰ろうとすると

9つ上の先輩が飲みに誘って来た。

特に予定もなかったので

いっしょに近くの居酒屋に向かった。

 

ガヤガヤ騒がしい店内。

私は正直こういうところが苦手だ。

人間の醜い部分が凝縮されているようで

虚しい気持ちになる。

 

先輩はさっきから会社の愚痴ばかり言っている。

私はそれに合わせて会話を適当に盛り上げる。

 

ふと、喫茶店で出会った女性の話をしてみた。

先輩は

なにそれ、宗教かネットワークの勧誘じゃねえの?と

笑った。

そうですよね、怪しいですよねー。と私。

 

会話はまた先輩の会社の愚痴に戻されていく。

 

終電が近づいて来たので

店を出て、先輩と別れた。

 

辺りでは

終電を言い訳にそそくさと駅に向かう若い女性と

寂しさを紛らわせるように夜の街に消えていくおじさんたちと

日常を忘却するために騒ぐサラリーマンたちが

東京の夜の街の風景をつくりだしていた。

 

私も

この街の風景をつくる一員となるべく

駅の方へと歩いて向かった。

 

田舎から上京したてのころは戸惑っていたが

今はさほど気にしなくなったのは

東京という街に私も染まってしまったからなのだろうか。

 

終電の満員電車のドアが閉じる。

電車がゆっくり動き出す。

私はうまい具合に自分のスペースを確保して

周りとの距離感を整える。

 

ふと、ドアの外に目をやると

茶店の女性によく似た姿の女性がホームを歩いていくのが見えた。

 

えっ!

...気のせいか。

 

そんな偶然などあるはずがない。

#振りをする私(第3話)

 前回のお話はこちら

bakufu-fu.hatenablog.jp

 

#振りをする私

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友達からはそんな忙しいなんて大変だねとよく言われる。

「えー全然忙しくないよー。」と余裕たっぷりに答える。

ほんとはヘトヘトだけど。

仕事ができない人だと思われたくないから

忙しいなんて口が裂けても言えない。

 

私は仕事のできる

誰からも憧れられる女性になりたいのだ。

 

プライベートは友達とランチをして

彼氏と素敵な夜を過ごす。

 

どんなに疲れていても

誘いは断らない。

 

最近周りから、結婚はいつするの?

とよく聞かれるようになった。

 

「えー結婚とか今は全然考えてないですよー。」

と答える。

実は今の彼氏と結婚することには不安がある。

どこかで私が窮屈さを感じているからだ。

 

周りは結婚ラッシュが来ている。

もちろんそんなことは気にしない

振りをしている。

 

 

ある日。

仕事でミスをしてしまった。

送ったはずの重要な書類が先方に届いてなかったのだ。

先方にすごい勢いで電話で怒られる上司。

私は上司に二度とこんなことのないようにと叱責された。 

(みんなの前でしなくてもいいのに。。)

きりっとした私の表情が少し歪んだ。

 

23時に帰宅。

気分がめっきり落ち込んでしまって、なかなか持ち直してくれない。

読書も今日はする気にはなれなかった。

携帯をおもむろに手に取る。

彼氏の番号を探し出した手が勝手に止まった。

 

彼氏には電話できない。

なぜなら彼に見せてる私はいつも元気な私だから。

 

たくさんの友達がいるように見える私は実は

本音で話せる友達は1人もいなかった。

 

(いろいろ我慢してがんばって来たんだね。)

 

茶店で出会った女性の言葉がふっと頭をよぎった。

涙が溢れてきてとまらなかった。

 

 

次の日。

土曜日、今日は完全に休み。

私は路地裏の喫茶店の扉の前にいた。

いきおいよく扉を開ける。

 

 

そこに彼女の姿はなかった。

#忙しさの中で忘れ去られる何か(第2話)

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#忙しさの中で忘れ去られる何か

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ある女性との出会いから1週間が経った。

私は日常の忙しさに飲み込まれ、

女性との出会いのことなどすっかり忘れてしまっていた。

 

私の日常はこんな感じだ。

朝、7時に起床してベランダのバジルに水をやる。

早く大きくなってね♡と声をかける

ことなんて気持ち悪いのでしない。

そもそもバジルなんて育てる余裕はないので買わない。

 

8時に家を出て満員電車に揺られ

始業時間9時の30分前には会社につく。

メールチェックや事前準備を済ませ外出。

外出時はカフェで息抜きをするのがお気に入り。

 

17時に帰社し報告や次のMTGの準備をし

18時には退社

...できる訳がない。

 

プレゼンの資料作成や会議の準備、研修。

その他もろもろやっていたらあっという間に時間は過ぎる。

退社は21時、22時になることは当たり前。

 

そこからまた満員電車に揺られ

帰宅。

疲れているけど、教養を深めるため読書。

サッとシャワーを浴びて

就寝。

 

また、次の日の朝を迎える。

 

平日5日働いて、土日は休み。

だけど、次の準備が間に合わない日は休日出勤もする。

先輩達だってやってる。

当たり前のことだ。

 

ある日仕事から帰ると、 

半年前にスーパーで買った封が開いていない乾燥バジルの瓶が

キッチンの床に転がっていた。

 

#出会い(第1話)

 前回のお話はこちら

bakufu-fu.hatenablog.jp

 

#出会い

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「あ、ありがとうございます。」

 

「隣り、座ってもいいですか?」

「え!、あ、はいっ。」

 

その女性は右隣りの1人掛けの椅子に座った。

 

(え、何?他にも席空いてるんだけど。)

 

そして女性はおもむろに鞄からパソコンを取り出し作業を始めた。

ピンクゴールドのMacのパソコンだった。

 

〈カタカタ、カタタタ、カタ〉

 

〈カタカタ、カタカタ、カタカタ、カタタッ〉

 

(・・・あれ?何も話しかけてこないのかな?)

 

私はコーヒーを飲む振りをしながら

横目でその女性を見た。

35才ぐらいだろうか?いや、20代前半にも見えなくはない。

女性は柔らかい雰囲気だが、意志ある顔をしていた。

 

ふと手元を見ると

左手の薬指にはシルバーの指輪がはめられていた。

 

「いろいろ我慢して頑張ってきたんだね。」

 

急に女性は振り向き笑顔でそう言った。 

不意をつかれたからか、

彼女のその言葉があまりにも私の心の奥の方をやさしく撫でたからか、

私は、一瞬力が抜けてしまった。

 

(いや、いや、油断してはいけない。)

 

私は気を取り直して、

彼女にきれいな笑顔で応えた。

 

「いや、そうでもないですよ。」

 

彼女はやわらかく微笑んだ。

 

そこから何を話したのかは覚えていない。

ただ、彼女との会話が心地よくて

私は今までに感じたことのない安心感を感じ始めていた。

 

 

気がつくと次のアポの時間だ。

私は焦って席を立った。

 

「そろそろ、次に行かないといけないので。」

 

「そうなんですね、お仕事がんばってくださいね。」

 

「ありがとうございます!」

 

「いろいろ迷うこともあると思うけど、

 私たちはね、『出会うために』生まれて来たんだよ。」

 

私は喫茶店をあとにした。

東京の風がいつもより優しく感じた。

 

#プロローグ

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ため息をつく。

コーヒーの香りが私の自律神経の緊張を少しやわらげる。

このコーヒーの色は私の今の心模様をどことなく映し出しているようだ。

 

周りからはよく

「クラちゃんは仕事ができそうだね。」

「友達が多そうだね。」

「いつも元気だね。」

「悩みがなさそうだね。」

とか言われる。

 

確かに、私は器用な方だと思う。

新卒で就職して9年目。

人間関係に困ったことはないし、

それなりのキャリアを積んできた。

 

だけど、、

私の本当の心を知っている人は誰もいない。

 

今日は水曜日。

次の営業先に向かうまでの束の間の空き時間。

いつもはチェーン店のカフェに入るのだけど、

今日は少し落ち着きたい気分だったので

路地裏の目立たない喫茶店に入った。

 

特別、何かがあった訳でもない。

毎日充実している。

でも

心にはぽっかり穴があいているようだ。

その穴を無理やり埋めるかのように

私は残ったコーヒーを流し込む。

 

「その時計おしゃれですね。」

 

不意に隣りから声が飛んで来た。

ハッとして顔をあげると

そこには、シンプルな装いの女性が

コーヒーを持って立っていた。

 

これが私が私らしい人生を『はじめる』

リラちゃんとの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

【登場人物】

 

◆クラちゃん(30)

性別:♀

未婚。

職業:営業

社交的で明るい性格。アウトドア派。

コンサバ系。

おしゃべり好きだが、本音は人には話せない。

経営者との人脈も多く、キャリアアップを考えている。

イケメンでハイスペック男子と結婚することが夢。

年収:450万円

 

◆リラちゃん(年齢不詳)

性別:♀

既婚。

職業 : 謎の主婦。

おだやかな性格。意外と熱い一面もあり。

カジュアル&ベーシック系。

どんな人とも仲良くなれる。

ある喫茶店Macを広げているところをたまに見かけるがそれ以外の生態は不明。

年収 : 不明