アラサークライシス×アラサーリライズ

危機がチャンスに変わる108の物語

#東京の街(第4話)

前回のお話はこちら 

bakufu-fu.hatenablog.jp

#東京の街

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茶店に彼女に会いに行った日から一ヶ月が経った。

私はミスしたことなどなかったかのようにして

再び忙しさの中に戻っていた。

 

あれから、何度か喫茶店に足を運んでみたが、

彼女に会うことはなかった。 

 

金曜日の夜。

仕事が早く終わって帰ろうとすると

9つ上の先輩が飲みに誘って来た。

特に予定もなかったので

いっしょに近くの居酒屋に向かった。

 

ガヤガヤ騒がしい店内。

私は正直こういうところが苦手だ。

人間の醜い部分が凝縮されているようで

虚しい気持ちになる。

 

先輩はさっきから会社の愚痴ばかり言っている。

私はそれに合わせて会話を適当に盛り上げる。

 

ふと、喫茶店で出会った女性の話をしてみた。

先輩は

なにそれ、宗教かネットワークの勧誘じゃねえの?と

笑った。

そうですよね、怪しいですよねー。と私。

 

会話はまた先輩の会社の愚痴に戻されていく。

 

終電が近づいて来たので

店を出て、先輩と別れた。

 

辺りでは

終電を言い訳にそそくさと駅に向かう若い女性と

寂しさを紛らわせるように夜の街に消えていくおじさんたちと

日常を忘却するために騒ぐサラリーマンたちが

東京の夜の街の風景をつくりだしていた。

 

私も

この街の風景をつくる一員となるべく

駅の方へと歩いて向かった。

 

田舎から上京したてのころは戸惑っていたが

今はさほど気にしなくなったのは

東京という街に私も染まってしまったからなのだろうか。

 

終電の満員電車のドアが閉じる。

電車がゆっくり動き出す。

私はうまい具合に自分のスペースを確保して

周りとの距離感を整える。

 

ふと、ドアの外に目をやると

茶店の女性によく似た姿の女性がホームを歩いていくのが見えた。

 

えっ!

...気のせいか。

 

そんな偶然などあるはずがない。