アラサークライシス×アラサーリライズ

危機がチャンスに変わる108の物語

#出会い(第1話)

 前回のお話はこちら

bakufu-fu.hatenablog.jp

 

#出会い

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「あ、ありがとうございます。」

 

「隣り、座ってもいいですか?」

「え!、あ、はいっ。」

 

その女性は右隣りの1人掛けの椅子に座った。

 

(え、何?他にも席空いてるんだけど。)

 

そして女性はおもむろに鞄からパソコンを取り出し作業を始めた。

ピンクゴールドのMacのパソコンだった。

 

〈カタカタ、カタタタ、カタ〉

 

〈カタカタ、カタカタ、カタカタ、カタタッ〉

 

(・・・あれ?何も話しかけてこないのかな?)

 

私はコーヒーを飲む振りをしながら

横目でその女性を見た。

35才ぐらいだろうか?いや、20代前半にも見えなくはない。

女性は柔らかい雰囲気だが、意志ある顔をしていた。

 

ふと手元を見ると

左手の薬指にはシルバーの指輪がはめられていた。

 

「いろいろ我慢して頑張ってきたんだね。」

 

急に女性は振り向き笑顔でそう言った。 

不意をつかれたからか、

彼女のその言葉があまりにも私の心の奥の方をやさしく撫でたからか、

私は、一瞬力が抜けてしまった。

 

(いや、いや、油断してはいけない。)

 

私は気を取り直して、

彼女にきれいな笑顔で応えた。

 

「いや、そうでもないですよ。」

 

彼女はやわらかく微笑んだ。

 

そこから何を話したのかは覚えていない。

ただ、彼女との会話が心地よくて

私は今までに感じたことのない安心感を感じ始めていた。

 

 

気がつくと次のアポの時間だ。

私は焦って席を立った。

 

「そろそろ、次に行かないといけないので。」

 

「そうなんですね、お仕事がんばってくださいね。」

 

「ありがとうございます!」

 

「いろいろ迷うこともあると思うけど、

 私たちはね、『出会うために』生まれて来たんだよ。」

 

私は喫茶店をあとにした。

東京の風がいつもより優しく感じた。